岡部桂一郎の歌集『緑の墓』を読了。目に留まった歌を引いておきます。
・黄昏の薄明にして処女マリアに眼つぶりておとめ寄りゆく
・まさびしきヨルダン河の遠方(おち)にして光のぼれとささやきの声
・遠くよりさやぎて来る悲しみといえども時に匕首(ひしゅ)の如しも
・凝視とも放心ともつかぬ瞳にて午前一時のさやぎをぞ越ゆ
・街川に音なく夜の雪ふれり愛につかれし吾をみちびく
・大空に菜の花の黄にねじあがる午後の視界に耳鳴りのして
・青桐の濡れたる幹に手をあてし吾に救いなき星またたけり
・降誕祭の鐘ひびきくるくら闇に強きライトを浴びし壁たつ
・野太鼓をどろどろ鳴らし天上す馬鹿のイワンにわが涙落つ
・口あけて鎮魂の弥撒(ミサ)に近づけるわが頭(ず)の上の黄昏の空
・盲目の蛾の来る夜半の灯あかりにわが脊柱をくだる汗あり
・ダマスコに近づく道に開きし眼を近代渡来の後も悲しも
・天(あめ)とおく高層ビルの重なれる谷に巡礼のごときわが泪落つ
・ただれたる没り日の空に梯子たてり黄色人のわれは恐れて
・夜よ夜よふしくれだちし手のひらに罪ふかく雪つもりゆくなる
・黄に濁る大河移動の幻覚の中にかさなるこおろぎひとつ
・工場に夕べの笛は起れども入相の鐘アンジェラスの鐘
・天を指す樹々垂直に垂直にして遠く小さき日は純粋なり
・夜もすがら空にすずしく鳴る音は盲導鈴なり去年までの生
・夕されば西に日落つることわりも吾に悲しく癩者は立てり
・くずれゆく君に会わんと心急ぐ鰯焼く香の垣根もすぎて
・献身のごとくたつ美樹をいきいきと晩夏の蟻はくだりゆきたり
・太陽は丘の十字架(クルス)にのぼりつつ混沌として吾は行く人
・洋傘(こうもり)をさげたる吾はまぼろしの市街に入りて行方はしらず
・夜ふけてひとりの蚊帳を吊りにたつ遠きいにしえになき罪ひとつ
・泥濘はただかがやきて有難しふるさとは死をたわやすくする
・生れかわり死にかわる人を幾たびか土に埋むるこのはかなごと
・黄昏の薄明にして処女マリアに眼つぶりておとめ寄りゆく
・まさびしきヨルダン河の遠方(おち)にして光のぼれとささやきの声
・遠くよりさやぎて来る悲しみといえども時に匕首(ひしゅ)の如しも
・凝視とも放心ともつかぬ瞳にて午前一時のさやぎをぞ越ゆ
・街川に音なく夜の雪ふれり愛につかれし吾をみちびく
・大空に菜の花の黄にねじあがる午後の視界に耳鳴りのして
・青桐の濡れたる幹に手をあてし吾に救いなき星またたけり
・降誕祭の鐘ひびきくるくら闇に強きライトを浴びし壁たつ
・野太鼓をどろどろ鳴らし天上す馬鹿のイワンにわが涙落つ
・口あけて鎮魂の弥撒(ミサ)に近づけるわが頭(ず)の上の黄昏の空
・盲目の蛾の来る夜半の灯あかりにわが脊柱をくだる汗あり
・ダマスコに近づく道に開きし眼を近代渡来の後も悲しも
・天(あめ)とおく高層ビルの重なれる谷に巡礼のごときわが泪落つ
・ただれたる没り日の空に梯子たてり黄色人のわれは恐れて
・夜よ夜よふしくれだちし手のひらに罪ふかく雪つもりゆくなる
・黄に濁る大河移動の幻覚の中にかさなるこおろぎひとつ
・工場に夕べの笛は起れども入相の鐘アンジェラスの鐘
・天を指す樹々垂直に垂直にして遠く小さき日は純粋なり
・夜もすがら空にすずしく鳴る音は盲導鈴なり去年までの生
・夕されば西に日落つることわりも吾に悲しく癩者は立てり
・くずれゆく君に会わんと心急ぐ鰯焼く香の垣根もすぎて
・献身のごとくたつ美樹をいきいきと晩夏の蟻はくだりゆきたり
・太陽は丘の十字架(クルス)にのぼりつつ混沌として吾は行く人
・洋傘(こうもり)をさげたる吾はまぼろしの市街に入りて行方はしらず
・夜ふけてひとりの蚊帳を吊りにたつ遠きいにしえになき罪ひとつ
・泥濘はただかがやきて有難しふるさとは死をたわやすくする
・生れかわり死にかわる人を幾たびか土に埋むるこのはかなごと