尾山篤二郎の歌集『さすらひ』を読了。目に留まった歌を引いておきます。
・総(すべ)てわが生命(いのち)、わが糧、神よこゝの原は、おもむろに秋となりはてにけり
・なにかえわかず、たゞ大(おほい)なる憧れのせまるがゆゑに跪づくなり
・身をおしすゑ、祈る心を誰(た)ぞしらむ草枯るる野の眼路(めぢ)のさびしさ
・朝夕の祈禱(いのり)も秋をおぼゆらむいのりの席(むしろ)こひしかりけり
・ニコライの鐘もしみじみ身にしみてきけばなづかしわが仮の宿
・いかにさびしく、見えまさるらむ旅すがた肩の嚢(ふくろ)にいれしバイブル
・いま一夜(ひとよ)経なばなむぢのかへり来むこの一夜(ひとよ)われに神も添へかし
・聖マリアの面ざしもさりながら汝(な)がやはらかき笑みの淋しかりけり
・見入れば瞳、かすかにひらきまたとぢぬこのしばし神われらに添へる
・落葉(おちば)よ、やよ、なれの生命(いのち)のたふとさは神しるべしやただ吾のみぞ
・うれしくも軽(かろ)きこころを浮かばせつただよふがごと身を杖によす
・傷むべき片輪とつげて過ぎゆけるちまたの風にほほゑまれぬる
・霧ふかき都の村の教会の灯かとまどはれさびしき町かな
・『こはイヱスの血、イヱスの肉』杯をあげつひとりつぶやく
・活字が語る言葉げにこそ不思議なり、幾度かまどひつつやがて信ぜり
・二人の恋は時がなせし悪戯(あくぎ)の一つなり、われに生命(いのち)を与へしも、隻脚(せききやく)を奪ひしも
・雨を聴け、雨を聴け、この夕べ雨は神よりも重き力を有す
・十年前(ととせまへ)に断(き)りたる脚ふと見ま欲しく、訊ぬれば、あでやかに笑ふ看護婦
・友のベッドにわれ独り臥しまろび、眼をば閉づ、遠き廊下にスリツパの音
・ぎしりと肉を切るメスの音、芝草を踏めばけざやかにわがおもふこと
*「ぎしり」に傍点
・深き夜の月のうすらに長廊下看護婦(みとりめ)の娘をみるはさびしも
・若き生命(いのち)顫(ふる)はせ笑ふ三人の白き衣の娘にあへるかな
・原をよぎるとき大(おほひ)なる呼吸(いき)をせり、再びなし難きもののごとく
・祝福あれと、戸をいでがてにつぶやきぬ樹立(こだち)を青く瓦斯(がす)のとぼれる
・総(すべ)てわが生命(いのち)、わが糧、神よこゝの原は、おもむろに秋となりはてにけり
・なにかえわかず、たゞ大(おほい)なる憧れのせまるがゆゑに跪づくなり
・身をおしすゑ、祈る心を誰(た)ぞしらむ草枯るる野の眼路(めぢ)のさびしさ
・朝夕の祈禱(いのり)も秋をおぼゆらむいのりの席(むしろ)こひしかりけり
・ニコライの鐘もしみじみ身にしみてきけばなづかしわが仮の宿
・いかにさびしく、見えまさるらむ旅すがた肩の嚢(ふくろ)にいれしバイブル
・いま一夜(ひとよ)経なばなむぢのかへり来むこの一夜(ひとよ)われに神も添へかし
・聖マリアの面ざしもさりながら汝(な)がやはらかき笑みの淋しかりけり
・見入れば瞳、かすかにひらきまたとぢぬこのしばし神われらに添へる
・落葉(おちば)よ、やよ、なれの生命(いのち)のたふとさは神しるべしやただ吾のみぞ
・うれしくも軽(かろ)きこころを浮かばせつただよふがごと身を杖によす
・傷むべき片輪とつげて過ぎゆけるちまたの風にほほゑまれぬる
・霧ふかき都の村の教会の灯かとまどはれさびしき町かな
・『こはイヱスの血、イヱスの肉』杯をあげつひとりつぶやく
・活字が語る言葉げにこそ不思議なり、幾度かまどひつつやがて信ぜり
・二人の恋は時がなせし悪戯(あくぎ)の一つなり、われに生命(いのち)を与へしも、隻脚(せききやく)を奪ひしも
・雨を聴け、雨を聴け、この夕べ雨は神よりも重き力を有す
・十年前(ととせまへ)に断(き)りたる脚ふと見ま欲しく、訊ぬれば、あでやかに笑ふ看護婦
・友のベッドにわれ独り臥しまろび、眼をば閉づ、遠き廊下にスリツパの音
・ぎしりと肉を切るメスの音、芝草を踏めばけざやかにわがおもふこと
*「ぎしり」に傍点
・深き夜の月のうすらに長廊下看護婦(みとりめ)の娘をみるはさびしも
・若き生命(いのち)顫(ふる)はせ笑ふ三人の白き衣の娘にあへるかな
・原をよぎるとき大(おほひ)なる呼吸(いき)をせり、再びなし難きもののごとく
・祝福あれと、戸をいでがてにつぶやきぬ樹立(こだち)を青く瓦斯(がす)のとぼれる