今年の折り返し地点まであと一ヶ月ほどになりました。ぼちぼち来年の干支がらみの短歌を作らなければと思いつつ、なかなか…です。
そこで、サル(猿、去る、申…etc.)に因んだ短歌作りに発破をかけるため、Twitterで二年以上かけてメモってきた#sarutankaを、備忘録として公開エントリーにします。
猿轡されたる熊が炎天下ぽつんぽつんと街道にをり/本多稜
限界の村の山畑守りつつ今日も確かに生きて猿追ふ/望月ふみ江
猿橋のたもとを染めるもみじ葉のひとひらふたひら欄干に落つ/飯島早苗
猿の害を網にて囲ふ里の畑白菜大根あをあを育つ/篠原俊子
穭田(ひつじだ)に座り込みたる猿の群れ穂を抜き食みて腹を充たせり/篠原俊子
腹すかし猫やら鵯やら来る庭に今日は一日離れ猿ゐる/河野裕子
玄関の林檎箱より林檎ひとつ持ちゆきし猿今朝はまだ来ず/河野裕子
離れ猿空を見上げて瞬(しばた)けり隠れなき老い赤き横顔/河野裕子
群れを率てをりし日のことこの猿は時どき思ふか屋根に芋食ふ/河野裕子
界隈の屋根から屋根を渡りゆく猿の腕(かひな)の意外に長し/河野裕子
どこでどう死んでゆくのか横向けば眼窩の窪みふかき猿はも/河野裕子
隣り家のさるすべりの紅(こう)散りこみて蔽ひゆきつつ吾が蝉塚を/苑翠子
人よりも山猿どものおほくすむ十津川郷へ尾のある人と/小黒世茂
風に吹かれそよげる猿に乞わむかも白毛が身をおおう安らぎ/佐伯裕子
ひとりではないのに独りひとりきり声あげて泣くこころの猿(ましら)/佐伯裕子
ケースには猿の脳みそ蜂の蠟かく存らえて人の生命(いのち)は/佐伯裕子
失せしものかぎりも知らず抽き出しに森閑と反るサルノコシカケ/佐伯裕子
ものを食む秋の哀しさ萌え出でしサルノコシカケにくち光らせて/佐伯裕子
猿沢の池のほとりで横座る遠い瞳(め)をした鹿に会ひにき/山科真白
捕はれて檻に戻れるボス猿は素知らぬふりに夕陽を仰ぐ/長田貞子
霧はれて乗合バスはぱふぱふと猿羽根峠を越えゆきにけり/田上起一郎
「苦が去る」と古布にてつくる猿ぼぼの細き梅の枝に九匹のせる/米山桂子
猿も子を殺すことあり恐ろしと言ひつつ殺すところを見しむ/竹山広
何をなし終りてそこに置かれたる電話の横のモンキースパナ/竹山広
ベートーベンに聴き入る猿を見せられしゆふべ出でて食ふ激辛カレー/竹山広
右の歯と左の歯にて均等に嚙むこと大事とは知り申す/竹山広
聖書など要り申さずと断れば音する傘をひらきて去れり/竹山広
力のみが支配する猿の世界にも見目よき男をみなごあらむ/竹山広
電灯の紐を仰臥の胸近くおろせば今日はすたすたと去る/竹山広
あな欲しと思ふすべてを置きて去るとき近づけり眠つてよいか/竹山広
あな醜(みにく)賢(さか)しらをすと酒飲まぬ人をよく見ば猿にかも似る/大伴旅人
手長猿飼ふ兵あるをわが見しが時すぎぬればあやしともせず/田中克己
猿の子の目のくりくりを面白み日の入りがたをわがかへるなり/斎藤茂吉
月あかきもみづる山に小猿ども天つ領巾(ひれ)など欲(ほ)りしてをらむ/斎藤茂吉
あかき面安らかに垂れ稚(をさ)な猿死にてし居れば灯があたりたり/斎藤茂吉
猿の面(おも)いと赤くして殺されにけり両国ばしを渡り来て見つ/斎藤茂吉
猿の肉ひさげる家に灯がつきてわが寂しさは極まりにけり/斎藤茂吉
空ひろく晴れたる下(もと)の猿ヶ辻きみに日照雨を教えしあたり/永田紅
天使魚の瑠璃のしかばねさるにても彼奴(きやつ)より先に死んでたまるか/塚本邦雄
袴さばきのたとへばわれをしのぎつつあはれ猿芝居の次郎冠者/塚本邦雄
さるすべり一花ひらきて梅雨いまだ明けぬあしたを初蝉の声/香月昭子
猿も出る裏山道をおどおどと上りて合歓の真盛りに逢ふ/狩野花江
病室の窓より見ゆるゴンドラがお猿のお籠のように揺れおり/飯沼鮎子
高き檻の内外にゐて面白きカバ、テナガザル、恋ビト、コドモ/石川美南
来し方も行く末もなし老猿が目を閉ぢてゐる冬の日だまり/永井陽子
猿の手を河童のミイラとして祀るさまざまな拉致ありし世の悲に/米川千嘉子
住むことを選んだ町に白い実と寒風、小猿、風船と汽車/東直子
ひとつ去りふたつ去りして苦の去るとましらここのつ細枝に遊ぶ/渡辺忠子
日盛りに職方ひとり登りいる工事場の屋根 白さるすべり/上野久雄
「猿だけは撃たれる時に目をつむる」駆除する人は深き眼に/岡本留音紗
この野郎! 揺れいる猿がしたたかに見上げていたりわれも淫らか/永田和宏
波勝崎その雌猿の石遊び時経てつひに〈文化〉となりぬ/古谷智子
口つけて谷の泉の水呑めば一寸猿似の私がうつる/喜多功
積乱雲に呼ばれたやうな感覚を残して夏の曲馬団去る/山田航
そこで、サル(猿、去る、申…etc.)に因んだ短歌作りに発破をかけるため、Twitterで二年以上かけてメモってきた#sarutankaを、備忘録として公開エントリーにします。
猿轡されたる熊が炎天下ぽつんぽつんと街道にをり/本多稜
限界の村の山畑守りつつ今日も確かに生きて猿追ふ/望月ふみ江
猿橋のたもとを染めるもみじ葉のひとひらふたひら欄干に落つ/飯島早苗
猿の害を網にて囲ふ里の畑白菜大根あをあを育つ/篠原俊子
穭田(ひつじだ)に座り込みたる猿の群れ穂を抜き食みて腹を充たせり/篠原俊子
腹すかし猫やら鵯やら来る庭に今日は一日離れ猿ゐる/河野裕子
玄関の林檎箱より林檎ひとつ持ちゆきし猿今朝はまだ来ず/河野裕子
離れ猿空を見上げて瞬(しばた)けり隠れなき老い赤き横顔/河野裕子
群れを率てをりし日のことこの猿は時どき思ふか屋根に芋食ふ/河野裕子
界隈の屋根から屋根を渡りゆく猿の腕(かひな)の意外に長し/河野裕子
どこでどう死んでゆくのか横向けば眼窩の窪みふかき猿はも/河野裕子
隣り家のさるすべりの紅(こう)散りこみて蔽ひゆきつつ吾が蝉塚を/苑翠子
人よりも山猿どものおほくすむ十津川郷へ尾のある人と/小黒世茂
風に吹かれそよげる猿に乞わむかも白毛が身をおおう安らぎ/佐伯裕子
ひとりではないのに独りひとりきり声あげて泣くこころの猿(ましら)/佐伯裕子
ケースには猿の脳みそ蜂の蠟かく存らえて人の生命(いのち)は/佐伯裕子
失せしものかぎりも知らず抽き出しに森閑と反るサルノコシカケ/佐伯裕子
ものを食む秋の哀しさ萌え出でしサルノコシカケにくち光らせて/佐伯裕子
猿沢の池のほとりで横座る遠い瞳(め)をした鹿に会ひにき/山科真白
捕はれて檻に戻れるボス猿は素知らぬふりに夕陽を仰ぐ/長田貞子
霧はれて乗合バスはぱふぱふと猿羽根峠を越えゆきにけり/田上起一郎
「苦が去る」と古布にてつくる猿ぼぼの細き梅の枝に九匹のせる/米山桂子
猿も子を殺すことあり恐ろしと言ひつつ殺すところを見しむ/竹山広
何をなし終りてそこに置かれたる電話の横のモンキースパナ/竹山広
ベートーベンに聴き入る猿を見せられしゆふべ出でて食ふ激辛カレー/竹山広
右の歯と左の歯にて均等に嚙むこと大事とは知り申す/竹山広
聖書など要り申さずと断れば音する傘をひらきて去れり/竹山広
力のみが支配する猿の世界にも見目よき男をみなごあらむ/竹山広
電灯の紐を仰臥の胸近くおろせば今日はすたすたと去る/竹山広
あな欲しと思ふすべてを置きて去るとき近づけり眠つてよいか/竹山広
あな醜(みにく)賢(さか)しらをすと酒飲まぬ人をよく見ば猿にかも似る/大伴旅人
手長猿飼ふ兵あるをわが見しが時すぎぬればあやしともせず/田中克己
猿の子の目のくりくりを面白み日の入りがたをわがかへるなり/斎藤茂吉
月あかきもみづる山に小猿ども天つ領巾(ひれ)など欲(ほ)りしてをらむ/斎藤茂吉
あかき面安らかに垂れ稚(をさ)な猿死にてし居れば灯があたりたり/斎藤茂吉
猿の面(おも)いと赤くして殺されにけり両国ばしを渡り来て見つ/斎藤茂吉
猿の肉ひさげる家に灯がつきてわが寂しさは極まりにけり/斎藤茂吉
空ひろく晴れたる下(もと)の猿ヶ辻きみに日照雨を教えしあたり/永田紅
天使魚の瑠璃のしかばねさるにても彼奴(きやつ)より先に死んでたまるか/塚本邦雄
袴さばきのたとへばわれをしのぎつつあはれ猿芝居の次郎冠者/塚本邦雄
さるすべり一花ひらきて梅雨いまだ明けぬあしたを初蝉の声/香月昭子
猿も出る裏山道をおどおどと上りて合歓の真盛りに逢ふ/狩野花江
病室の窓より見ゆるゴンドラがお猿のお籠のように揺れおり/飯沼鮎子
高き檻の内外にゐて面白きカバ、テナガザル、恋ビト、コドモ/石川美南
来し方も行く末もなし老猿が目を閉ぢてゐる冬の日だまり/永井陽子
猿の手を河童のミイラとして祀るさまざまな拉致ありし世の悲に/米川千嘉子
住むことを選んだ町に白い実と寒風、小猿、風船と汽車/東直子
ひとつ去りふたつ去りして苦の去るとましらここのつ細枝に遊ぶ/渡辺忠子
日盛りに職方ひとり登りいる工事場の屋根 白さるすべり/上野久雄
「猿だけは撃たれる時に目をつむる」駆除する人は深き眼に/岡本留音紗
この野郎! 揺れいる猿がしたたかに見上げていたりわれも淫らか/永田和宏
波勝崎その雌猿の石遊び時経てつひに〈文化〉となりぬ/古谷智子
口つけて谷の泉の水呑めば一寸猿似の私がうつる/喜多功
積乱雲に呼ばれたやうな感覚を残して夏の曲馬団去る/山田航