大野誠夫の歌集『薔薇祭』を読了。目に留まった歌を引いておきます。
・降誕祭ちかしとおもふ青の夜曇りしめらひ雪ふりいづる
・クリスマス・ツリーを飾る灯の窓を旅びとのごとく見てとほるなり
・安息(やすらぎ)の歌ごゑきこゆ冬まひる白き階段をしづかに上る
・若葉して涼しき風にころぶせる浮浪者のそば人はゆききす
・息絶えし襤褸のひとを忽ちに事務のごとくに運び去りたり
・にほひなき土にひれ伏し物乞へど冷やかににして人目過ぐらめ
・憐みを強ふるしぐさも身に添ひて襤褸のいのちときのま光る
・こころさへ盲(めしひ)に堕ちてよごれたる体虐げ生きるなりけり
・神さへも見失ひつつ何もなき裸形(らぎやう)をつつむぼろぼろの衣(きぬ)
・隠し持てるパンの破片(かけら)を暗がりに餓(ひも)じき子らの争ふらしも
・いとけなき子らといへども闇賭博盗みさへして荒く生きぬく
・幼きら並びて靴を磨きをり孤りの生きのすべなく勁(つよ)き
・降誕祭の鐘鳴る空は青曇りかすけき幸は胸にきざすか
・過去(すぎこし)のゆめ鳴りいづるヴイオロンをていねいに拭きぬ食に換ふるか
・すべもなくけふは売らなと携へし絃(いと)切れし楽器・仏蘭西革命史など
・自棄(やけ)くそに歌ひまくれる路次のこゑ暗き夜空を雪ふりこぼる
・天使歩む幻覚楽し幼子の土踏みてゆく小さき赤き靴
・一本のペンにて生きむといふ自恃のはかなきまでに夜をふかしつつ
・ジヤズ寒く湧きたつゆふべ堕ち果てしかの天使らも踊りつつあらむ
・洟(はなじる)も手錠も光りゆくみれば神に背きて生けるもの悲し
・罪と知りて犯せしならむ子を負へる女も曳かれゆく風の路
・声低く買へとせまれる闇煙草買はむとしつつためらふは何
・声あげて繩とびあそぶぼろぼろの天使の群にわが歩み寄る
・ジユール・ルナアルの幼かる日の物語身にひびくとき眉曇るらし
・庭隅にひとむらがりの水葉萌ゆ青生なまと罪を意識す
・口ひらけば忽ち人を傷つけぬ沈黙しまた思ひきり悪たれをつく
・聖書読み日々の虚妄に耐へゆくか戦のあとの女身ひとり
・人眠る夜半を眼覚めて念々に罪を企むいきどほりつつ
・諷刺ともなく呟き渡る夜の橋さまよふ羊よそほへる狐
・飛行服売りゆきし彼夜の涯に得し歓楽の悔をつぶやく
・嬰児らを餓ゑしめて次々と死なしめし罪は永遠に消えることなき
・韮食ひて血色のよくなりし子を抱きて眠る臭くして足らふ
・どんなひとにも微笑を湛へ交りしアリヨーシヤ・カラマーゾフのやうに生きたき
・眼を病める友訪ひゆけば一枚の落葉を置きて古びし机
・眠られぬ夜の感情も何か脆く怒りの消えしころに風邪ひく
・幼らも祈りささげて眠るとき富の幸福はくるかとおもふ
・降誕祭ちかしとおもふ青の夜曇りしめらひ雪ふりいづる
・クリスマス・ツリーを飾る灯の窓を旅びとのごとく見てとほるなり
・安息(やすらぎ)の歌ごゑきこゆ冬まひる白き階段をしづかに上る
・若葉して涼しき風にころぶせる浮浪者のそば人はゆききす
・息絶えし襤褸のひとを忽ちに事務のごとくに運び去りたり
・にほひなき土にひれ伏し物乞へど冷やかににして人目過ぐらめ
・憐みを強ふるしぐさも身に添ひて襤褸のいのちときのま光る
・こころさへ盲(めしひ)に堕ちてよごれたる体虐げ生きるなりけり
・神さへも見失ひつつ何もなき裸形(らぎやう)をつつむぼろぼろの衣(きぬ)
・隠し持てるパンの破片(かけら)を暗がりに餓(ひも)じき子らの争ふらしも
・いとけなき子らといへども闇賭博盗みさへして荒く生きぬく
・幼きら並びて靴を磨きをり孤りの生きのすべなく勁(つよ)き
・降誕祭の鐘鳴る空は青曇りかすけき幸は胸にきざすか
・過去(すぎこし)のゆめ鳴りいづるヴイオロンをていねいに拭きぬ食に換ふるか
・すべもなくけふは売らなと携へし絃(いと)切れし楽器・仏蘭西革命史など
・自棄(やけ)くそに歌ひまくれる路次のこゑ暗き夜空を雪ふりこぼる
・天使歩む幻覚楽し幼子の土踏みてゆく小さき赤き靴
・一本のペンにて生きむといふ自恃のはかなきまでに夜をふかしつつ
・ジヤズ寒く湧きたつゆふべ堕ち果てしかの天使らも踊りつつあらむ
・洟(はなじる)も手錠も光りゆくみれば神に背きて生けるもの悲し
・罪と知りて犯せしならむ子を負へる女も曳かれゆく風の路
・声低く買へとせまれる闇煙草買はむとしつつためらふは何
・声あげて繩とびあそぶぼろぼろの天使の群にわが歩み寄る
・ジユール・ルナアルの幼かる日の物語身にひびくとき眉曇るらし
・庭隅にひとむらがりの水葉萌ゆ青生なまと罪を意識す
・口ひらけば忽ち人を傷つけぬ沈黙しまた思ひきり悪たれをつく
・聖書読み日々の虚妄に耐へゆくか戦のあとの女身ひとり
・人眠る夜半を眼覚めて念々に罪を企むいきどほりつつ
・諷刺ともなく呟き渡る夜の橋さまよふ羊よそほへる狐
・飛行服売りゆきし彼夜の涯に得し歓楽の悔をつぶやく
・嬰児らを餓ゑしめて次々と死なしめし罪は永遠に消えることなき
・韮食ひて血色のよくなりし子を抱きて眠る臭くして足らふ
・どんなひとにも微笑を湛へ交りしアリヨーシヤ・カラマーゾフのやうに生きたき
・眼を病める友訪ひゆけば一枚の落葉を置きて古びし机
・眠られぬ夜の感情も何か脆く怒りの消えしころに風邪ひく
・幼らも祈りささげて眠るとき富の幸福はくるかとおもふ