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Channel: 水の門
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『遠き人近き人』より

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吉野昌夫の歌集『遠き人近き人』を読了。目に留まった歌を引いておきます。


・単純なる仕事繰り返す勤めなれど通ひ始めてより夜ごとよく眠る鳴り
・俸給を渡されしわれが小册子をもとめて帰る昼の休より
・食ひぶちにも足らざるわれの俸給が喜びとなる母に渡りて
・誰が読むと言ふにもあらずぼろぼろの聖書がありて埃つみたり
・かぎりなく汝を愛すといふ言葉ある夜素直にわが妻は受く

・妹にせがみて教会につきゆきし幼な子がアイスクリームを下げて帰り来る
・配管多き地階廊下にオルガンを持ち出してコーラスの練習始む
・教会の高きガラス窓灯さねばいろどられをり通りのネオンに
・アパートの一階の窓に製本の内職が見えラジオの音きこえゐる
・机上勤務支障なしといふ證明書もおそらくは就職を保證せざらむ

・履歴書を受けつけてくれぬ憤りを君は笑ひにまぎらしてしまふ
・話しかけてをらねば気づまりな人々を避けて来ぬ心の底のどこかで
・何かよそのこと考へてゐるらしき妻を見ぬ隣家の火事にあひてより
・プラカードを捧げしサンタ・クロース達銀座の路地のあちこちに見ゆ

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