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Channel: 水の門
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一首鑑賞(8):さいとうなおこ「教会より届く手紙の」

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少女の日に通いし丘の教会より届く手紙の文字変りたり
さいとうなおこ『キンポウゲ通信』

 この歌を読んだ瞬間「あっ」と思った。教会にかつて通い、今は諸事情で遠ざかっている人にも、たまに教会から送られてくる郵便物は、何らかの印象を残していることが分かったからである。
 2014年度初頭の教会の年度主題研修会で、教会入り口付近の掲示などを充実させ、通りすがりの方にチラシ類もお持ちいただけるよう整備しようという案が出た。それを受けて独自の『N教会だより』の発行について思案していたが、少し前に図書館で借りた某短歌入門書を読んでピンと閃いた。信仰などにまつわる短歌の一首鑑賞を書いて、『教会だより』に載せようと思ったのだ。そうなると、次々アイディアが湧いてきた。A4の紙を半分に折り、表紙には聖句とそれにマッチした扉絵を、裏に返すと教会の三ヶ月間の主立った予定を掲載してはどうか、中身は【牧師からのメッセージ】、【一首鑑賞】、それに【私の好きな聖句】を載せてはどうだろう……。
 実は【私の好きな聖句】は私のオリジナルの発案ではない。私は高校時代あるキリスト教主義学校に通い新聞部に所属していた。そこで発行していた学校新聞に、各号違う教師にお好きな聖句をインタヴューして書く小さなコーナーがあったのだ。実はその学校で教鞭を振るわれていた先生には、N教会で信仰を育まれた方もいる。教会の120周年記念誌にその先生からの寄稿があったことには心底驚いた。あるとき先生の授業中、私は通信の受験講座の勉強の「内職」をしていたことが見つかり、先生とその教材の奪い合いになったことがあった。結局先生は力づくで奪取し、後で職員室に来るようにと申し渡された。仕方なく職員室に行くと、先生は軽く注意をなさっただけで、教材を返して下さった。
 この『教会だより』は、その先生に今も送り届けられているはずである。高校受験に失敗してあの学校に行っていなければ、キリスト教主義大学の指定校推薦を取ることもなかったろうし、後に洗礼を受けることもなかったであろう。そしてとある病気を患って山梨に移り住むようになっても、N教会に通うことにはなっていなかったに違いない。
 冒頭の歌の「手紙の文字」は、週報や教会だよりを送る封筒の宛先などの筆跡だろうか、あるいは封入された一筆だろうか。『N教会だより』も新しい号ができ上がると、次の委員会で最近の新来会者の方々に送ることにしている。宛名は委員が手分けして手書きする。さいとうのようにその方々にも、何か心に届くものがあることを願いつつ。
 

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